日本野球の改革(1)
少数意見あれこれ
日本の青少年野球 二つの改革が急がれる
A 投手寿命のための球数制限
日本も米国並みに球数制限をルールで科すべきだと再三力説してきた。
今般、この方向で高野連が動きそうだが、それでも反対勢力があるような印象だ。
部員数が少ない高校に不利、全国統一の規定を考えることが先、最後の年になる3年生エースに出来るだけ多く投げさせてやりたい・・などの理由や心情があるようだ。
物事にはメリットとデメリットがある。ぐずぐずしていると、野球に限らず日本は何も変わらない。
参考コラム1 投手の寿命
松坂大輔、ダルビッシュ、田中マー君。 海を渡り鳴り物入りで大リーグ入りしたスーパースター先発投手たち。 メジャーデビュー当初は期待を裏切らない活躍を見せてきた。 しかし、渡米して2,3シーズンが過ぎると、おかしくなる。 手術や長期リタイヤーだ。
大リーグでは、選手獲得の際には入念なメディカル・チェック(身体検査)を実施する。 日本のエース級投手のMRI診断画像を見て向こうの球団関係者はいつも唖然、驚いてきた。 腕の筋肉の微細組織がボロボロなのだ。 米国の投手には有り得ない。
そのような日本人投手の獲得について球団関係者の意見は割れる。 今は素晴らしい。 しかし、試合環境の日米の違い、たとえば、中4日登板、長距離時差移動、多い試合数、延長無制限を考えると、長持ちするだろうか? 大金を投資する価値があるか? だが、結局は成り行きで契約に踏み切る。 数年働いてくれれば良い消耗品だったとしてメジャー球団は割り切るのかもしれない。
そもそも、なぜ、日本の多くの投手は年齢的な最盛期を迎える前に、肉体的にボロボロになるのだろうか? 答えは分っている。 プロになるような投手は、殆ど、少年野球から高校野球まで投打ともにチームのワンマン大黒柱。 投手としては、ほぼ全試合、全インニングを一人で投げる。
アメリカのスポーツ医学の研究結果によると、投げる為の筋肉の耐用寿命は子供の頃からの投球数の積算総数で決まる。 この知見を受けて、アメリカでは少年野球を含めてアマチュア球界はルールとして、投手ごとの球数制限を科している。 プロはどうかというと、ルールはないが、契約時に球数の上限の目安を約束する。 全て、投手の保護の為である。 その結果、40歳を過ぎても155キロを投げるノーラン・ライアン、ロジャー・クレメンス、ランディ・ジョンソンなどのレジェンドが輩出した。
参考コラム2 甲子園球児の悲劇 彼らに比べて、松坂、ダルビッシュ、マー君の今までの生涯投球総数は凄い数字になる。 早く綻びが起こることは必然といえる。 甲子園に向けた盛夏の地方予選、近年の有力校は良い投手を複数揃えて戦う。 しかし、投手で四番の傑出した子だけが頼りの学校は今でも少なくない。 猛暑の中を一人で連投に次ぐ連投の大車輪。 そのような子の頑張りだけで、予選6試合を勝ち抜いて甲子園初出場を果たした学校があった。 それは激戦地・福岡県の飯塚高校、その投手は左腕の辛島航。甲子園の本戦では溜まっていた疲労が限界となって2回戦敗退。 それでも、地元・飯塚のヒーロー、私は当時仕事の関係で飯塚市民だった。 辛島は卒業するとプロの楽天に入団。 高校時代の酷使の後遺症のためか故障が多く、シーズンを通しての活躍は27歳になった今日まで出来ていない。
高校野球の監督は自分の任期中に実績をあげたい。 そこを、預かった高校球児が通過していく。 監督にとって目の前の試合の結果が全て。 だから辛島のような投手を酷使せざるを得ない。野球選手としての、その子の将来を気遣う監督は殆どいないと思う。
プロにもそのような監督はいた。 たとえば、酷使されて潰された投手は新人王に輝いた現解説者の与田剛、同じ中日で怖い熱血監督の下でエースとして投げた今中慎二の寿命も短かった。 古くは、彦根東高から入団した毎日オリオンズのルーキー中川隆。 当時では珍しいフォークを駆使して防御率1位に輝いた。しかし、酷使され肘を壊し1年で消えていった。 一方、選手は体の異変を隠すことが多い。 これには2種類ある。 一つ目は主にチームの主力選手の場合。 チームが苦しい時期、俺が頑張ってチームを引っ張る、弱音や離脱はチームメートの士気にも影響するというもの。精神主義、根性主義である。 典型は、松坂のライバルだったが故障が癒えず早期引退した天才ジョニー黒木。同じくロッテの剛球中継ぎ右腕として日本一に貢献した伊藤義弘も転落のキッカケはそうだった。昨季を最後に伊藤は野球界から消えた。
「痛い」とは決して口にせず異変を隠すケースの二つ目は、1軍レギュラーに定着できない1軍半の選手たち。異変を首脳陣に知られると使って貰えないというもの。
こういう経緯で2軍に落とされ2度と上に呼ばれずに去っていった選手は少なくない。 プロの世界は厳しく切なく悲壮である。
上に述べてきた事例は氷山の一角。 悲劇はルール規制で防ぐことが出来ると思う。 少年野球からプロまで、日本の連盟または機構は、登板間隔や投球数に関して投手の「働き方改革」を考えて貰いたい。 また、プロなら選手会が改善に向けた交渉を行うことも出来るはずである。
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