切なくも心に残る話(2)
つれずれ草 第30段
人の亡なきあとばかり、悲しきはなし。
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中陰ちゆういんのほど、山里などに移ろひて、便びんあしく、狭せばき所にあまたあひ居ゐて、後のわざども営み合へる、
心あわたゝし。日数かずの速く過ぐるほどぞ、ものにも似ぬ。果ての日は、いと情なう、たがひに言ふ事もなく、
我賢かしこげに物ひきしたゝめ、ちりぢりに行きあかれぬ。もとの住みかに帰りてぞ、さらに悲しき事は多かるべき。
「しかしかのことは、あなかしこ、跡のため忌いむなることぞ」など言へるこそ、かばかりの中に何かはと、
人の心はなほうたて覚ゆれ。
<後略>
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葬儀で身内、友人、知人が大勢集まって故人を偲びながら悲しむ。 2,3日経つと、都合を言い訳に帰る者が出始める。
49日を過ぎれば親族でも残っているのは僅か。
一周忌の法事に来る者も少ない。
時の移ろいとともに、故人は忘れられていく。 このことを人々は知っている。 だからこそ、葬式の別れは悲しい。