ガリレオ先生との仮想対談: STAP騒動を振り返る
キーワード: パラダイムシフト 権力・権威の転換 ローマ・カトリック教会 地動説
(2014年12月 旧yahoo掲示板より再編集)
司会:タイムマシンで来て下さったガリレオ先生が、今日はテレビ朝日の古館キャスターとSTAP騒動の
件で話をして頂きます。 先生は到着されて日が浅いのですが、発生学を中心とした現代生物学を勉強されました。
STAP問題についても経緯と概要を素早く理解されました。 さすがです。 では早速はじめましょう。
<常識を破るときにも、背景や前夜がある>
古館:先生の地動説は当時の常識を覆すものでしたね。
ガリレオ; それは正確ではありません。 発想はコペルニクス先生が最初です。
それに、ブルーノ君もいました。 彼は火炙りの刑に処せられるとき「それでも地球は動く」と言い残しました。
私が最初ではありません。
古館: 科学の変革にも前夜的な背景があるのですね。 アインシュタインの特殊相対性理論も機が熟していた、時空の問題が
数理物理学で既に真剣に議論されていた。 学生時代に友人から聞きました。
ガリレオ:そうです。 STAP研究の根拠となる仮説は「高等動物の分化細胞でも、ある種のストレスを受けると、
初期化が起こる」というものですね。 これも、突然出てきたアイディアではありませんよね。
古館:そのような初期化は植物や下等動物では既に知られているようです。
ガリレオ:初期化が高等動物でも可能かも知れないと考えるのは自然ですね。
コペルニクスの地動説、そして、私や惑星運動のケプラー君へと考えは受け繋がれました。
自然な流れというか、科学の成り行きですね。
古館: そう思います。 しかし、今日まで高等動物では誰も示すことは出来ていません。
ところが、小保方さんはそれが出来たと主張し、STAP細胞と名付けたのです。
ガリレオ:それは素晴らしい。 でも、その実験には疑惑が多くあると聞いていますが・・・。
古館: そうです。 データの改ざんや捏造です。
ガリレオ: それはマズイですね。 地動説を裏付けるために、私は自作の望遠鏡で観測に毎晩励みました。
でも、当たり前ですが、そうして得たデータについて改ざんなど一切していません。
そういう思いや誘惑も起こりませんでした。
<科学を職業にする人が出てから、科学は純粋ではなくなった>
司会: 今は、小保方氏は袋叩きです。 擁護する人は殆どいません。 ガリレオ先生もそのような苦しみを味わいましたね。 そこの辺りを話してもらえませんか。
ガイレオ: 私への非難の理由は彼女とは全く違います。 地動説はローマ・カトリックの教義を根底から揺るがすものでした。 それが世間に広がると教会は困るからでした。 だから弾圧されたのです。実は、教会も天動説ではなく地動説が正しいと内心では思い始めていたのです。
古館:分かりました。 では、当時の学者からの妬みや嫉妬のようなものはありましたか?
ガリレオ: それは無かったと思います。 科学者はみんな純粋でした。 それはプラトンやアリストテレス以来の学問の伝統でした。 学校や大学が出来ましたが、学者は基本的には教育者でした。 研究をする者もいましたが、趣味のようなものでした。
古館:ではいつから純粋ではなくなったのでしょうか?
ガリレオ:研究を職業にする人が出たころからです。 はじめは王や貴族がスポンサーのお抱え学者でした。 ルネッサンスの芸術家たちもそうでしたね。
古館:今思い出しましたが、先生は敬虔なローマ・カトリックの教徒だったと聞きますが・・・。
ガリレオ: 私はカトリック教会の活動にも関係していました。 実は、教義の守旧派でした。 だからこそ、地動説は許しがたい裏切りだったのです。 そういう意味で私は憎まれました。
<不正の蔓延はコンピュータ・システムの進歩と普及が主な原因>
古館:なるほど。 小保方氏も多くの人から憎まれています。なぜなら、研究不正は、多くの有名・無名の研究者を騙し、貴重な時間やお金を無駄にさせます。税金も浪費します。 犯罪です。
ガリレオ: 研究に限らず不正は世界中で蔓延していると聞きます。 昨今は特にヒドイようですね。
古館:政治、経済、社会、ビジネス、そして、学問とどこでも横行しています。人々は不正にマヒしているような感じです。ゴルフのスコアーを誤魔化す人も急増しています。 それも、そのような人の殆どは普段は悪い人ではない、普通の人達なのです。 そういう仲間には小学校の校長先生もいます(笑)
ガリレオ: それは困ったことですね。 純粋だった科学がおかしくなったのは科学を職業にする者が出てきてからだと私は思っていました。 でも、今はそれだけでは説明がつかない。 競争や成果主義も近年になってから始まったわけではありません。
司会: 先生は何かお考えがありそうですね。
ガリレオ: はい、コンピュータが原因だと感じます。 コンピュータというものを初めて見せて貰い、説明を聞きました。 ちょっとだけですが使わせて貰いました。 便利ですね。何でも出来そうです。
古館: 悪事も手軽にできるということですよね。 このことは、通信のテクノロジーとコンピュータが結びついたことが大きいのです。 画像やデータの数字をいじったり、コピペや盗作、情報の盗み出し、オレオレ詐欺、どれも今は、その気になれば、誰でもコッソリと比較的簡単にできます。
ガリレオ: なるほど。 私の時代には、弟子たちが実験室で何をしているか、この目で一目見れば分かったものです。そうではなくなったわけですね。
古館: 大学の研究室における教授の悩みだけではありません。 企業でも、ソフトウエアの納期が迫っていても、担当課長には進捗状況が皆目分からない。 聞けば「大丈夫、心配しないでください」という答えが返ってくるだけ。 PC画面を覗きこんでも無駄、お手上げです。
ガリレオ: コンピュータに限らず、バイオも含めて科学技術が高度になり専門化が進むと、そのような密室化が起こるということですね。
古館: 今回の小保方さんの研究も密室で行われたといって良いでしょう。
<小保方さんの不正とSTAP説の真偽は別次元の問題>
司会:ではお約束の時間も迫りましたので、STAP細胞に話を戻したいと思います。
古館:世間の多くの方々と同様に、私も、今回の不正には憤りを禁じ得ません。ただ、小保方憎しで、STAP細胞仮説も憎い、否定するという人達もいるようです。 また、STAP仮説の可能性について少しでも肯定的なことを言うと、お前は小保方を擁護するのか、と叩かれることもあります(苦笑)。
ガリレオ:それは悲しいことですね。 今は証明が無理でも、100年後には、分化細胞の初期化は生物全体を通して常識になっているかもしれません。 その可能性を否定することは今は誰にもできない筈です。 科学に感情が入ると危険です。
古館:私も同感です。 STAP細胞の真偽問題は、小保方さんの不正とは切り離して扱う別次元の問題だと思います。 両方をゴチャマゼにするとヘンなことになります。
ガリレオ: 私が言おうとしていたことを先に代弁して下さいました。地動説が認められるまで長い歳月がかかりました。 その終盤で、教会にとって、地動説は「不都合な真実」となりました。
その一方で、相変わらず裁判中も私は憎まれました。 しかし、地動説を憎むということはなかったと思います。 最後になりますが、被害を蒙った関係者や納税者の皆様に同情します。
しかし一方で、科学の大きな枠組みや大義からみれば、今回の不正事件は小保方という特異な人物が起こした事故のように感じます。 とはいえ、それが、不正というものに皆がマヒした社会の氷山の一角として捉えるならば、単なる事故として片づけることは出来ないとも感じます。
司会:そろそろ時間となりました。 お疲れ様でした。 有難うございました。
<編集あとがき>
ガリレオ先生は、口には出さなかったが、我々の時代に生まれなくて良かった、という心境が滲み出ていました。 弾圧、迫害を耐えて、後世に名を残した人のお話は心に訴えるものを感じます。 また機会があればタイムマシンに乗って来られるそうです。
ガリレオ先生は、今回の騒動は小保方という「特異な人物」が起こした「事故」という感想を最後の方で述べられました。対談の後で、古館キャスターは下のような個人的な思いを漏らしていました。
もっと単純なことではないだろうか? 彼女は、実は、普通の女の子。 渋谷の街で今日も多く見かけるような若い女性。 何も知らず留学はした。 そこで、STAPの話に洗脳された。 帰国すると、理研の幹部はが良く調べもせず、その話に飛びついた。 未熟な彼女は研究というものが何かを知らなかった。 分からないままに責任者にされた。それなりに彼女はノリノリ気分となった。それで、成り行き上、アッケラカンと色々なことを、ゲーム感覚で悪気なくヤラカシテしまった。
上はガリレオ先生には到底理解できないと思って対談中は言わなかったそうです。
あるいは、もしかして、彼女の中では本当にSTAP現象が見えたのかもしれない。失敗の現実を受け入れられず、その人の脳内では仮想現実に転化される。史上最大の捏造事件(常温超伝導)のショーンについても似たような可能性を指摘する人がいます。