市中感染の数理科学(1)
概要
市中のウイルスの総量は図の1人当たり平均ウイルス量に地域人口(1万人)を掛けたもの。 それは簡単には分らない。
客観的に分るのは新規の感染者の数です。
これは、毎日発表される新規陽性者数のグラフとしてお馴染みです。、
もしグラフが右肩上がりならば、地域は緊張。 行動規制が要請される。
他方、新規感染者数が右肩下がりになれば、人々もメディアも医療関係者も政治家もひと安心。
気持ちは緩み、規制は解かれます。
実は、新規感染が増えるのは、市中ウイルス量が急速に増大中のときなのです。
高止まり、または、減少過程において新規感染は起り難い。
このことは「新規」 の意味からも自明と思います。
言い換えると、新規の急増は市中ウイルスが急増中を意味する。 また、新規感染がピークアウトから減少、
もしくは、高止まりのときでも、背景の市中ウイルス量は高いレベルを維持していても不思議ではありません。
そうなることを、本理論モデルの世界が示しています(図2)。
冒頭の図1に戻って。、新規感染の急増に直面して行動規制が要請される。 「うつし率p] は1.5から0.05に下がり、
新規陽性者は劇的に減った(「うつし率」の定義と意味合いは備考1)。
図1のケースでは規制解除のタイミングが9日目)、解除後は気の緩みもあって、うつし率は0.10まで上がった。
それでも、感染の再拡大は食い止めらています。
もし、解除が2日早く7日目だったら、そうはならず再拡大を招く可能性は大です。
新規感染が激減して底に達したように見えるので7日目に解除したと思われます。一見、無理も無い決断に見えます。
しかし、この2日早い解除は「早とちり」です、市中ウイルスは十分低いレベルまで下がっていないのです。
解除のタイミングの良悪と解除後の状況予測については次回のブログで検討予定です。
平均ウイルス量(市中ウイルス総量)、新規感染者の推移
考察:上の一連の推移グラフ
まず次が確認できます。
(1)うつし率が低い場合、PCR平均値は基準より遥かに下。 時間が経っても上がることなく頭打ちで平坦となる。
(2)うつし率が0.11を超えるあたりから緩やかに上昇、やがて基準値を跨ぐ。
うつし率が0.14を越すと、増加は指数関数的に急峻になる。
(3)新規感染者の数の変化は、基準を下から上に跨ぐ付近で活発になる。
(4)うつし率が低いとき新規感染は起らない。
(5)うつし率が高くても、PCR平均値が基準値を或る程度上回われば新規感染は起らない。
なぜ(1)や(2)のようになるか? 、まず(2)について。 うつし率が高いと、貰う量が増える。
よって、貰う方のウイルも増える。 そして近隣のウイルスも含めてはさらに増える。
これは悪のスパイラル。 倍々ゲームに似た感じの増加曲線となります。 (1)では反対に、ウイルスはハナカラ少ない。
よって近隣へのうつし量は小さい。増える理由がなく、ねずまりの頭打ちとなる。
(3)も(4)も「新規」の意味から自明です。
(5)も同様に自明。
(3)で述べた新規感染数の活発な変化は、
「何もしなければ、たとえ新規感染は収まっても、ウイルス量の急増を伴う感染爆発に繋がる」
という警告あるいは予兆と捉えられます。 この点、毎日多くの人々が一喜一憂する新規感染者は「沈黙のデータ」なのかもしれません。
(2)の後半の「指数関数的な急峻な右肩上がり増加曲線」についてですが、最近の重症化や死亡の増加という傾向と関係ある かも知れません。 この傾向は医療体制の問題に間違いなく起因。 ただ一方、もっと単純に、市中ウイルス量の増大も一因ではないでしょうか? ちなみに、重症化や死亡は新規感染者の増加に遅れて報告されます。 今回のシミュレーションでも、ウイルス量の増加は新規感染数に遅れて現れます。
ところで、ここでは、陰性・陽性を分けるPCR基準値を1として、ウイルス量の推移のグラフを描きました。 この基準値はどれくらいの個数のウイルスに対応している? キャリブレーション(校正、目盛り付け)の問題です。 PCRの読み取り目盛りと実際のウイルス量は国際的に1対1に校正されている? そうなってないと、新規陽性者数などの疫学データは比較できないし、また信頼がおけません。
以上のトレンドとポイントは50x50=2千5百でも150x150=2万2千でも同じでした。 平均をとっているのだから当たり前といえます(大数の法則)。 500x500=25万人の試みを当初は計画したが、途中で無駄と考え止めました。
ただし、10x10人の結果はかなり外れます。面配列に於ける、「末端(隅っこ)効果」が相対的に如実に現れた結果と推察します
<参考ブログ https://pruning101.com/?p=1527、https://pruning101.com/?p=1519 >。
備考1うつし率の定義と意味
< 参考ブログ >
https://pruning101.com/?p=1512
「うつし率 p」は「放出率α」と「貰い率β」の掛け算です。
人物Aと人物Bのウイルス保有量を、それぞれxとyとします。
Aは、自分の保有量のα(%)を周りに撒き散らす。 すなわちAの放出量はαxです。
このうち、Bが貰うウイルス量は、βx(αx)=αβx となります。
放出率αと貰い率βの積αβが、AからBへのうつし率と考えます。
すなわち、p=αβです。
マスクもソシアルディスタンスも、αとβの双方に影響します。
また、βはその人の抗体システムに大きく左右されます。
AからBへのうつし率は、Bからみれば、Aからの“うつされ率”です。
集団の場合、放出率も貰い率も個人で違うので、うつし率にはバラツキがあります。
しかし、ここでは集団は大人数を想定しているので、平均的には隣同士のうつし率は全部同じ値のpと考えて統計計算を行ないました。 つまり、近隣同士はお互い様です。
ただ、今後で検討予定の特異人物(スーパースプレッダーや変異株保有者)が存在するクラスター発生過程では話しが違ってきます。
備考2 C言語のプログラム 描画ツールgnuplotへの繋がりを意識して書きました。
赤で/* */ で囲ったコメントは分り易くするためです(自分の為にも)。